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2008年7月 2日 (水)

『ザ・マジックアワー』(監督:三谷幸喜)

Photo  一日の最後に、ほんの一瞬だけ訪れる時間。それがマジックアワー。映画人の誰もが、最高の絵が撮れるこの瞬間が来るのを待ち望んでいる。港町、守加護(すかご)を牛耳るギャングのボス、天塩(西田敏行)の愛人マリ(深津絵里)にだって、そのボスの愛人と関係を持ってしまったために殺されかかっているクラブ「赤い靴」の支配人、備後(妻夫木 聡)にだって、そして備後にハメられて伝説の殺し屋、デラ富樫に仕立て上げられた三流役者、村田大樹(佐藤浩市)にだってマジックアワーはやってくるはずなのだ。でも、それは。。。

 三谷監督が言っているように、コメディは芝居のうまい俳優さんじゃないと務まらない。この映画で村田大樹役の佐藤浩市が熱演する殺し屋、デラ富樫(何だかややこしいなぁ)は、本物の富樫を天塩に引き合わせることができなかった備後が、苦肉の策でデッチ上げた偽者だ。だから売れない役者が精一杯気張って、本物らしく振舞うがゆえにコメディになるといった微妙な役回りなのです。彼はこの難しい役をこれ以上ないバランス感覚でこなしています。キメ過ぎると笑えず、かと言って有能な殺し屋らしく見えないとシラける。観客はデラ富樫になりきって演じている村田が、いつ正体を見破られてしまうかドキドキしながら見入っているのだから。富樫(実は村田)がナイフを舐めながらギャングのボスの前で大見得を切るシーンなんて三文役者ぶりもいいところで、もう最高に笑える。まさにこれは佐藤浩市のための映画だと言っていいでしょう。彼の達者な演技にはすっかり参ってしまいました。コメディ俳優としての彼の才能は、昨年公開の映画『スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ』でその片鱗が見られたけど、今回、見事に開花した感じです。  

 三流役者、村田の真骨頂はラストシーンでお目にかかれる。村田を慕う映画人たちがここでは大活躍します。ギャング映画なのに誰も殺されません。たとえ絶体絶命の状況に陥ったとしても。さらに登場人物たちにはいくつもの「救い」が用意されています。劇中映画(ムービー・フォー・ムービー)として上映される「暗黒街の用心棒」が大団円のカギを握っているのです。鈴木京香、綾瀬はるか、戸田恵子、天海祐希ら女性脇役陣の演技もそれぞれ個性的で素晴らしかったのですが、ボクは特に、年老いた高瀬 允役の柳澤愼一の演技に目をうるませてしまいました。物腰の柔らかいこの老紳士の映画に賭ける想いと気骨ある態度は感動ものです。何度も大笑いして、ちょっぴり泣けて、ジワジワと感動がこみあげて、そして最後にはホッとできる。『ザ・マジックアワー』はそんな映画でした。三谷幸喜監督の最高傑作との評判はダテではありません。

Photo_2  劇中の様々なシーンには監督の映画への愛が溢れているし、この映画はまた、登場した俳優達の役者魂だとか、映画製作を裏方として支えている職人さんたちのプロ根性や意地に対するオマージュなのだとも言えそうです。美術担当の種田陽平が創り上げた、まるで映画のセットのような守加護の街並みは、架空の街なんだけど実在していそうな、どこか懐かしさを覚えるレトロでお洒落な光景です。アメリカのシカゴのような、それでいてヨーローッパの街のようにも見える不思議なセットは、ちょっぴりセンチメンタルな場面もあるこのコメディの舞台にマッチしています。また、街のシンボルとも言えるかもめの「カモン君」も愛くるしくて印象深いです。

 見終わったあとでも噛みしめるように味わえるこの映画。今でもいろんなシーンがボクの頭の中でリフレインしています。今回も松本エンギザで、6/28(土)の最終上映回を観てきました。映画を見終わって、劇場から出てきたときに感じる、閉館前のひっそりと静まり返ったあの雰囲気が好きです。そしてこのあと、いつもの街に飲みにくり出すのです。

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