『ゴールデンスランバー』(監督:中村義洋)
宅配ドライバーの青柳(堺 雅人)は、釣りに行く格好で仙台の街中を歩いている。道行く人たちは青柳のほうを振り返り、含み笑いを残して去ってゆく。
信号待ちの交差点の向こうに大学時代の友人、森田(吉岡秀隆)を発見する。待ち合わせていた様子なのに、なぜか森田はスーツ姿だ。久しぶりに再会したと思われる二人は、そのまま路上に止めてあった森田の車に乗り込んで昔話に花を咲かせる。でも、二人の会話はどこか意味深だ。
青柳はひょんなことからアイドル、凛香(貫地谷しほり)を助けたことがニュースとなり、いまや時の人になっていた。正義の味方として地元ではちょっとした有名人だ。だから街を歩く青柳は人から注目される。一方、森田は仙台の大学を卒業したあと、すぐに上京して結婚したものの、妻はパチンコ中毒。森田の知らない間にけっこうな借金をつくっていた。
実は森田は、ある筋から友人の青柳を路上の車に誘い出し、しばらくとどめておけば、借金を帳消しにしてやるとそそのかされていたのだった。森田の額に汗がにじむ。そう、これは初めから仕組まれた罠だったのだ。
その日はちょうど仙台出身の首相がオープンカーで凱旋パレードを行う予定になっていた。まもなく二人の乗った車のうしろで爆発音が鳴り響く。首相が何者かによって暗殺された。まもなく警察は不審車が暗殺現場の路上に長時間止まっているのを察知する。何もかもが出来過ぎている。。。
こうして首相暗殺犯に仕立てあげられた青柳の逃走劇がはじまる。テレビは一斉に青柳が女性とラジコンヘリを操縦している映像を流しだす。首相暗殺の犯行に使われたラジコンヘリと同じものだという解説付きで。
警察の包囲網をかいくぐるように逃げ続ける青柳。テレビは執拗に彼を犯人と決めつけた報道を繰り返す。さて、もしあなたが青柳の友人だったら、こんなときどんな態度をとりますか?
止むにやまれず友人を売った森田のような奴もいる。でも、森田は最後の最後に真実を告げ、青柳を逃がそうとする。自分はある筋から消される運命だと知っていてだ。さらに逃走中の青柳を助けようと、カズ(劇団ひとり)、樋口(竹内結子)らかつての仲間たちが次々と動き出す。
大学を卒業して、それぞれ別々の人生があって、いつしか大学時代の仲間とは関係が切れてゆく。世の中にそんな大人はたくさんいるでしょう。もちろんボクもそのうちのひとりであるわけで。仮にボクが青柳のような目に遭ったとしても、ボクを助けてくれる旧友なんているんだろうか、いや、まずいないだろうと思っています。
この物語はファンタジーです。若き日の友情が永遠に続くというファンタジー。。。
世間が犯人と決めつけ、警察さえも追っているかつての友人を、人は信頼しきれるものだろうか。逃走に手を貸せば自分だってヤバくなるのを知ってて、その友人を助けるなんてことが本当にできるだろうか。もしそんな友人が一人でもいたとしたら、あなたは幸せな人だとボクは思う。
中村監督は脚本も書いているのだけれど、時間軸を縦横無尽につなぎ替えてファンタジーを紡ぎだす天才です。冒頭から、結末に向けての話の伏線を随所に張ってきます。たとえば冒頭のエレベーターでのシーン、映画の結末に深くかかわっているんです。これ以上はネタバレになりそうなので書きませんけどね。
この映画のタイトルは、あのビートルズの名曲、「ゴールデンスランバー」からとっています。「黄金のまどろみ」という意味のこの曲は、ビートルズの解散寸前、バラバラになってしまった4人の心を、何とかしてこのバンドにつなぎとめたいという思いで、ポールが書いたものなのだとか。真偽のほどは知りませんが。
あんなに仲の良かった4人でさえ、バンド解散の時はやってきた。。。
青柳ら大学時代の4人の友人達は、はたしてどのような絆で結ばれていたのでしょう。嘘くさくなく、かといって現実ではありえない物語のなかで、すっかり断たれてしまったようでいて、実は今もちゃんと繋がっていた、かつての彼らの友情がよみがえります。
『ゴールデンスランバー』は、青柳を取り巻く様々な登場人物に感情移入しながら最後まで飽きずに楽しめて、そしてなぜかホッとする映画でした。こういう映画もまたいいもんです。原作者の伊坂幸太郎もファンタジーの達人ですね。日本のマスコミを皮肉っている描写も絶妙で、スカッとさせられます。青柳の父親を演じた伊東四朗がおいしい役どころだったな。
この日、岡谷スカラ座のレイトショーで、リニューアル後、初の映画を観ることができました。
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